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名古屋地方裁判所 昭和45年(ワ)381号 判決

主文

一、被告は原告に対し別紙目録記載の建物から退去し、別紙図面記載のその敷地約一一三・一六平方メートルを明渡し、昭和三六年一月から昭和三九年一二月までは三・三平方メートル当り一か月金六〇七円、昭和四〇年一月から右建物退去までは三・三平方メートル当り一か月金一、一六二円の割合による金員を支払え。

二、訴訟費用は被告の負担とする。

事実

第一、当事者の求めた裁判

一、請求の趣旨

主文同旨の判決および仮執行宣言

二、請求の趣旨に対する答弁

1  原告の請求はこれを棄却する。

2  訴訟費用は原告の負担とする。

第二、当事者の主張

一、請求の原因

1  原告は、別紙図面記載の土地(以下本件土地という)を含む名古屋市中区栄二丁目一五一九番宅地三六二・四七平方メートルを所有している。

2  被告は別紙目録記載の建物(以下本件建物という。)を占有してその敷地の本件土地を不法に占有している。

3  原告が本件土地を使用できないことによる損害は、三・三平方メートル当り、一か月に、昭和三六年一月から昭和三九年一二月までは金六〇七円であり、昭和四〇年一月以降は金一、一六二円である。

4  よつて、原告は被告に対し、右建物退去土地明渡を求めるとともに、昭和三六年一月から昭和三九年一二月までは、三・三平方メートル当り一か月金六〇七円、昭和四〇年一月から右建物退去までは、三・三平方メートル当り一か月金一、一六二円の割合による損害金の支払を求める。

二、請求の原因に対する認否

1  請求の原因1の事実は認める。同2の事実中被告が本件建物を占有してその敷地の本件土地を占有していることは認める。被告の占有権原については抗弁1のとおりである。同3は争う。

三、抗弁

1  本件土地を原告から建物所有の目的で賃借し、その上に本件建物を建築所有していた水野善兵衛から、被告は、昭和二七年六月一八日本件建物を適法に賃借しそのころ引渡しを受けた。

2  したがつて、被告は本件土地の不法占有者ではないから原告の請求は失当である。

四、抗弁に対する認否

抗弁1の事実は認める。

五、再抗弁

1  原告と水野善兵衛との間で、昭和三〇年一二月一五日、本件土地の賃貸借契約を合意解除し、右水野は昭和三五年一二月末日限り本件建物を収去して右土地を明渡すべき旨の調停が成立した(昭和三〇年(ユ)第二六九号建物収去土地明渡事件)。従つて本件土地についての原告と水野善兵衛(およびその承継人)との間の賃貸借契約はおそくとも昭和三五年一二月末日までには終了している。

2  原告が水野善兵衛との間の本件土地賃貸借の合意解除をもつて被告に対抗することができる特別の事情があるがそれは左のとおりである。

昭和三〇年一二月一五日右調停成立の際には、原告は、被告が設立されていることは全く知らなかつた。

また右調停成立当時、右調停の当事者たる水野善兵衛が、被告の代表者であり、被告は、当時から僅か数名の従業員を擁するのみでその実質は全くの個人商店と変らないものであつた。

六、再抗弁に対する認否

1  再抗弁1の事実は認める。

2  同2の事実中原告主張の調停成立当時水野善兵衛が被告の代表者であつたことは認めるが、その余は全て争う。

第三、証拠(省略)

理由

一、請求の原因中原告が本件土地を所有していること、および、被告が本件建物を占有してその敷地の本件土地を占有していることは当事者間に争いがなく、請求の原因3の事実は鑑定人豊嶋杪の鑑定の結果によりこれを認めることができ他に反証はない。

二、抗弁1および再抗弁1の各事実はいずれも当事者間に争いがない。

三、そこで進んで再抗弁2の合意解除を対抗しうる特別の事情の有無について判断する。

まず原告主張の調停成立当時、水野善兵衛が被告の代表者であつたことは、当事者間に争いがない。

四、成立に争いのない甲第一、二号証、乙第一号証、証人野口理祐の証言と原告(第一、二回)および被告(但し後記措信しない部分を除く)各本人尋問の結果によれば、被告は、昭和二七年六月一八日、徽章、メダル、バツジ類の製造販売、金属加工、七宝製品の製造販売等を目的として設立された合資会社であるが、これは、それまで水野善兵衛が個人として行つて来たものを会社組織に改めたもので、同人は設立と同時にその代表者となり以後同人は昭和三二年一二月一五日死亡するまでの被告の無限責任社員であつたこと、被告は設立当時から従業員五、六名を擁するにすぎず、右設立の前后を通じてその経営規模にさほどの変更もみられなかつたこと、原告主張の調停当時、本件土地の明渡しについて原告代表者と話し合つた水野善兵衛も会社設立のことにはふれず原告代表者としては被告の設立については全く知らなかつたことを認めることができ(但し右調停成立当時水野善兵衛が被告の代表者であつたことは当事者間に争いがない。)被告代表者本人尋問の結果中右認定に反する部分は前掲各証拠に比照したやすく措信しえず他に右認定に反する証拠はない。

以上認定の各事実によれば、原告は、水野善兵衛との間の本件土地賃貸借の合意解除をもつて被告に対抗しうるものと解すべきである。(最高裁判所昭和三八年四月一二日判決民事判例集第一七巻三号四六〇頁参照。なお最高裁判所昭和三八年二月二一日判決民事判例集第一七巻第一号第二一九頁参照。)

五、以上の次第であつて原告の本訴請求は理由があるからこれを認容し、訴訟費用の負担につき民事訴訟法第八九条を適用し、仮執行の宣言の申立については、相当でないからこれを却下し主文のとおり判決する。

別紙

目録

名古屋市中区栄二丁目一五一九番地所在

家屋番号 一五一九番の二

一、店舗付居宅

木造瓦葺平家建   六一・二一平方メートル

一、居宅兼物置

木造亜鉛メツキ銅板葺三〇・六四平方メートル

以上登記簿上の表示

現状

一、木造瓦葺平家建

建坪 八坪(二四・四四平方メートル)

一、木造瓦葺平家建

建坪 一五坪五合(五〇・二三平方メートル)

一、木造亜鉛板張屋根平家建

建坪 約五坪(一六・五三平方メートル)

一、木造平家建(付属仮建設)

建坪 六坪(一九・八〇平方メートル)

〈省略〉

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